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「キミには、戻りたい世界はある?」
「戻りたい世界?」
「うん。もし過去に戻れるとするなら、キミはどこに飛びたい?」
「過去」に、戻れるとするなら。
穏やかな風が、サッと通り過ぎるように吹いてきた。
戻れる時間なんてない。
それはもうずっと、頭の中で考えてきたことだった。
「…よく、わからないんだけど」
「そうなんだ。おかしいなぁ。ここに来る人はみんな、「過去」に囚われてる人たちなんだけど」
「過去に?」
「うん。会いたくても、会えない人。そういう人がいると、ここに迷ってしまうんだ」
——空を見て。
猫は、そう言った。
見上げると、さっきまでなかったはずの飛行機雲が、青い空の下にまっすぐ線を引いていた。
それだけじゃなかった。
その飛行機雲を追いかけるように、無数の飛行機が、音を立てるでもなく飛んでいた。
積乱雲の連なる地平線。
その、峰に向かって。
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