あの日、あの時

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 電話をかけた先は、「2014年」。  教えられるがままに番号を打ち、耳を澄ませた。  受話器越しに呼出音が鳴った。  どこにでもあるような電話の音だ。  prrrrrrr  ここがどこかなのかはわからない。  “何してるんだろう”って、そう思う自分もいる。  夢でも見てるのかな?  そんな感情が不意に横切って、古びた街並みをサッと見渡した。  書店には、たくさんの本が並べられていた。  雨が降ったらどうするんだろう?って思うほど、入り口の外には立てかけ用のラックがいくつか置かれていた。  古い書物や、外国語で書かれた雑誌。  どれも、昭和の雰囲気を感じるものばかりだった。  私は平成生まれだけど、“昭和臭いもの”っていうのはなんとなくわかる。  この町並みがそうだった。  歩いてて思ったんだ。  “昔の町だな”って。  実際に見たわけじゃないけど、なんとなくわかるでしょ?  昭和から続いてる中華料理店や理容室、それと、学校。  アルバムに飾られた昔の写真。  80年代のヒットソング。  まあ、よくは知らないけどね?  だけどこの町には、「今」を感じるものが何もなかった。  『8番地区』と書かれた3階建ての建物は、まるで旅館を思わせるような骨組みの日本建築だった。  木格子に、しっくい壁。  軒下からぶら下がった提灯は、玄関先に立つ背の高い灯籠と合わさって、どこか落ち着いた雰囲気を漂わせていた。  
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