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「いい?過去に戻ったら、決して振り返らないで」
戻れるはずがないと思ってた。
喋る猫に、見慣れない町。
何もかもが現実離れだったとしても、変わらない気持ちだけは、ずっとそばにあった。
わかってたんだ。
会いたい人、戻したい時間。
変わらずに想ってた。
いつまでも、しまい込んでた。
彼を忘れたことなんてなかった。
あの日々のことを、手放した日なんてなかった。
いつだって聞こえてた。
耳を澄ませば、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
アルプススタンドに響くブラスバンドの演奏や、真夏の日差し。
首を持ち上げるひまわり。
立ち込めるアスファルトの熱気と、——蝉時雨。
ねえ、ハル。
もしキミにもう一度会えるなら、私はどこにだって飛んでいくよ。
きっときっと、何年かかっても、もう一度キミの背中に触れられるように、この足を踏み出す。
prrrrrrr…
……………
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それから、どれだけの時間が経ったのかわからない。
気がつけば部屋のベット上にいた。
窓際に差し込む眩しい光と、鳥の囀りのそばで。
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