かつての夢

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かつての夢

 1m80cmのバー。  いつからか、飛ぶイメージができなくなってしまっていた。  グラウンドに帰ることもなくなっていた。  いつかは飛べる。  そう思う自分が、かつてはいた。  初めて1m60cmを飛べた時、何もかもが順調に思えた。  踏み出す足の位置も、ジャンプ前のイメージも。  走り高跳びでもっとも基本となる動作は、助走前の距離感だ。  爆発的な力を一点に集中させるためには、バーまでの距離を頭の中に刷り込んでおかなければいけない。  バーの手前、——つまり、スピードが乗った頂点に足を踏みしめるには、立ち止まることを考えちゃいけない。  イメージは“鳥”だった。  地上から飛び立つ前の鳥。  翼も羽も持っていないけど、まっすぐ向かうべきラインが、バーと地面を結ぶ直線上にあると思った。  垂直方向への力と、バークリアランスのための回転力。  その、——中心に。
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