かつての夢

2/13
前へ
/61ページ
次へ
 …チュン  チュンチュン  チチチ…  朝だ。  さっきまで、「夢」を見ていた。  踏み切りの前に立つ自分。  タータントラックのレンガ色と、アシックスのシューズ。  「ニャー」  …猫?  そうだ。  そう思いながら、目を擦った。  仕事に行かなきゃいけない。  …なのに、どこ?ここ    ぼやける視線の先で、見慣れた光景が飛び込んできた。  壁掛け用ラックにかけられたトレーニングウェアと、ロンドンオリンピックのポスター。  椅子の上に置かれたバックパック。  42インチのテレビに、ドラム式の洗濯機。  白いカーテンの隙間から、大都会の喧騒が見えた。  隙間もないほどに覆い尽くされたビル群が、眩しい日差しを丸ごと掬い集めたようにチカチカしていた。  東京タワーが見える。  品川駅周辺の街並みに、シーサイドのショッピングセンターも。  よく、部屋の窓辺から見えるこの景色を見ていた。  高校を卒業してから、しばらく東京の景色を目にすることはなかった。  この場所には苦い思い出しかない。  今も変わらずに、その感覚はどこかにあった。  
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加