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…チュン
チュンチュン
チチチ…
朝だ。
さっきまで、「夢」を見ていた。
踏み切りの前に立つ自分。
タータントラックのレンガ色と、アシックスのシューズ。
「ニャー」
…猫?
そうだ。
そう思いながら、目を擦った。
仕事に行かなきゃいけない。
…なのに、どこ?ここ
ぼやける視線の先で、見慣れた光景が飛び込んできた。
壁掛け用ラックにかけられたトレーニングウェアと、ロンドンオリンピックのポスター。
椅子の上に置かれたバックパック。
42インチのテレビに、ドラム式の洗濯機。
白いカーテンの隙間から、大都会の喧騒が見えた。
隙間もないほどに覆い尽くされたビル群が、眩しい日差しを丸ごと掬い集めたようにチカチカしていた。
東京タワーが見える。
品川駅周辺の街並みに、シーサイドのショッピングセンターも。
よく、部屋の窓辺から見えるこの景色を見ていた。
高校を卒業してから、しばらく東京の景色を目にすることはなかった。
この場所には苦い思い出しかない。
今も変わらずに、その感覚はどこかにあった。
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