2人が本棚に入れています
本棚に追加
全部が詰まってた。
当時の不安や期待も。
窓辺から差し込む、眩しい街の色も。
「本当に、過去に…?」
呆気に取られながら、私は猫を見ていた。
もし、時間を飛び越えられるなら——
そう思いながら、電話の番号を押した。
この場所、——この景色。
過去を蒸し返そうってわけじゃないんだ。
後悔しているわけでも、あの頃に戻りたいわけでも。
…いや、後悔してないっていうと、それは嘘になるかもしれない。
本当はわかってるんだ。
時間は巻き戻せないって。
戻りたくても、“戻れない”って。
ずっと言い聞かせてた。
踏ん切りがつかない自分に、強く言い聞かせてた。
だからわかってた。
頭の奥では、ずっと心残りだった。
やり直せるなら、やり直したいんだってこと。
…追いかけられるなら、ずっと追いかけていたいんだってことは。
貼り紙は破ったはずだった。
オリンピックのポスターも。
表彰状や、大会の日にちが記載されたカレンダーも。
いつの日からか、飛び方がわからなくなっていた。
そんな自分が嫌になって、シューズやユニフォームを捨てた。
不安に押し潰されるくらいなら、いっそ何もかも綺麗にしてしまおうと思ってた。
飛ぶだけが全てじゃないって思った。
あの頃の自分は、——いつも。
最初のコメントを投稿しよう!