かつての夢

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 …はあッ…はあッ……  変な夢でも見てるんだろうか?  鼻先に掠める東京湾の磯の香りと、田町駅周辺の人だかり。  高層ビル群が、糸を組み合わせたように並んでいく。  隙間もないほどに埋め尽くされた排気ガスのうねりと、影。  大都会の喧騒が、あの当時と変わらない背格好を保ったまま、忙しない足取りの中を動いていた。  田町駅の3番線から、川崎駅まで。  もし、彼に会えるとしたら。  私たちはいつも、同じ場所にいた。  毎日のように電車に乗って、多摩川の河川敷に遊びに行ってた。  彼は川崎市に住んでた。  昔から。  すぐ隣にある東京の街は、彼にとっての遊び場だった。  長閑な田んぼのすぐそばで暮らしていた私にとって、彼の子供の頃の話は、どれも非日常的だった。  よく、原宿や渋谷に遊びに行ってたそうだった。  電車に乗って、——時には、自転車に乗って。  県境にある多摩川。  その向こうに続く東京の景色は、まるでおとぎ話の中のような世界だった。  はじめは知らなかった。  神奈川が、こんなに近くにあると言うことも。  川の流れが、こんなにもゆったりと流れていることも。  
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