かつての夢

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 穏やかな川べりの景色と、橋の向こうに見える鉄塔と。  人で溢れかえる駅のホームを、それまで目にしたことはなかった。  明かりが消えることのない夜の街も。  入り組んだ首都高速のジャンクションも。  川崎駅の改札口を抜けて、西口に出る階段を降りた。  川崎駅前の通りは相変わらずだった。  相変わらず、静かだった。  とくに西口は、整備されたバスターミナルの景観も相まって、開放感のある広間のような作りになっていた。  たった20分の距離なのに、こんなにも違う。  最初は、そう思ったっけ?  田町駅は、人がいつもごった返していた。  背の低い駅舎の中には、風通しの良い通路がトンネルをくり抜いたように続いていた。  簡素なコインロッカーの列や、古びた公衆用の電話機。  どこか、昭和臭い雰囲気が立ち込めていた。  サッと筆を撫でるような。  仄かな煙が、鼻先に掠めていくような。  静けさからは程遠い雑踏が、バタバタと通路の上を泳いでいた。  数の多い改札口が、矢印だらけの看板の下で、四六時中開いたり閉じたりしながらさ?
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