2人が本棚に入れています
本棚に追加
もう、桜は散っている。
川崎駅の西口に出ると、多摩川へと続く通りに、桜の並木道がある。
彼に誘われて、初めてこの場所に来た時もそうだった。
桜が散って、春が終わろうとしている頃だった。
しっかり緑が咲いて、初夏の暖かい風が、並木道のそばを通り過ぎるように吹いていた。
嫌々、彼の後ろをついて歩いたっけ?
「ちょっと付き合ってくれない?」
そう息巻く彼の足取りは軽くて、人の意見なんて、聞こうともしなくて。
ソリッドスクエアの東館が左手に見えて、川沿いの向こうに伸びていく線路が、並木道のトンネルを抜けた先に現れる。
どうして、こんなところに来ちゃったんだろう。
彼とは友達でもなんでもなかった。
たまたま同じクラスで、たまたま、席が近かったってだけで。
どこに連れて行かれるのかも、何が待っているのかもわからなかった。
ただ、気がついたら電車に乗ってた。
初めて見る神奈川の街と。
夕暮れ時の、赤茶けた空と——
最初のコメントを投稿しよう!