かつての夢

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 もう、桜は散っている。  川崎駅の西口に出ると、多摩川へと続く通りに、桜の並木道がある。  彼に誘われて、初めてこの場所に来た時もそうだった。  桜が散って、春が終わろうとしている頃だった。  しっかり緑が咲いて、初夏の暖かい風が、並木道のそばを通り過ぎるように吹いていた。  嫌々、彼の後ろをついて歩いたっけ?  「ちょっと付き合ってくれない?」  そう息巻く彼の足取りは軽くて、人の意見なんて、聞こうともしなくて。  ソリッドスクエアの東館が左手に見えて、川沿いの向こうに伸びていく線路が、並木道のトンネルを抜けた先に現れる。    どうして、こんなところに来ちゃったんだろう。  彼とは友達でもなんでもなかった。  たまたま同じクラスで、たまたま、席が近かったってだけで。  どこに連れて行かれるのかも、何が待っているのかもわからなかった。  ただ、気がついたら電車に乗ってた。  初めて見る神奈川の街と。  夕暮れ時の、赤茶けた空と——
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