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時々思い出すんだ。
さやさやと流れる川の音色に、羽田空港から飛び立つ飛行機。
多摩川のそばに見える景色はいつも雄大で、それでいて穏やかだった。
彼がこの場所を好きな理由も、なんとなくわかる気はした。
都内の喧騒からは考えられないほどの静けさが、広い川べりのそばにあった。
どうせ、ろくでもない場所でしょ?
俯きがちな視線のそばで、足どりは重かった。
それどころじゃなかった。
高校に入学してから、思うようにいかないことばかりだった。
もっと、すんなりいくと思ってた。
一日中陸上のことを考えて、いつも、高く飛ぶイメージだけを、思い描いて…。
土手へと上がる階段。
色褪せたコンクリートを踏みしめながら、多摩川の上に広がる景色が、バッと目の前に飛び込んできた。
橋の上を通っていく東海道本線の電車と、太田区のビル群。
チカチカと反射する日差しが、川面を飛ぶように泳いでいる。
さぁぁっと揺れていく草むら。
緩やかな曲線が、東京と神奈川の境界を切り離すように伸びていく。
あの頃と何も変わらない。
何もかもが、そう思えた。
大師橋の白い鉄橋や、土手の下に続く、広い敷地は。
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