かつての夢

12/13
前へ
/61ページ
次へ
 「キミがここに来た理由は、なんとなくわかるよ」  猫はそう言った。  呆然と立ちすくむ私のそばで。  私は、どうしていいかわからなかった。  今すぐに彼に会いたかった。  だけど…  「ここは、…現実…なの…?」  「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」  猫は、ここに来るまでに私に忠告していた。  この世界の「ルール」は2つ。  1つは、過去を変えてはいけないということ。  そしてもう1つは、過去を受け入れること。  その意味はわからなかった。  当たり前のことすぎて、それが“どういう意図なのか”がわからなかったからだ。  過去は変えられないし、受け入れなくちゃいけない。  ずっと、そう思いながら生きてきた。  何を今さらって感じだった。  「記憶の中…って、言ったよね?」  「そうだよ」  「…じゃあ、彼は?」  「彼がどうかした?」  「…生きてるの?」  「うーん。まあ、考え方によってはね」  …なに、それ  息の仕方も忘れてしまうくらい、動けなくなる自分がいる。  わかってるんだ。  こんなの、あり得ないってこと。  だけどもし、…もし、彼が生きてるなら。  「気をつけて。過去を変えることは許されない。一歩踏み間違えれば、キミは元の世界に帰れなくなる」
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加