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元の、…世界に?
彼の元へと踏み出した先で、猫はそう言った。
通り過ぎた時間は、もう巻き戻せない。
私が迷い込んだ世界は、私の記憶の中であり、すでに変えることのできない事象の表面。
水面を揺らすことはできても、海の形を変えることはできない。
一度吐き出した言葉は、もう2度と、口の中に戻ることはない。
かつて、私は1m80cmのバーを飛ぼうとしていた。
重力に抗おうとしていた。
空を飛べると信じていた。
だけど、踏み切りはもうずっと後ろにある。
走り出した足は、もう、巻き戻せない位置にある。
私が今いる場所、——立っている場所は、「今」を失った場所に違いはない。
足は地面の上にはない。
だから決して、「飛ぼう」としてはいけないと言われた。
過去でも、未来でもない場所。
その境界に一度でも足を踏み入れれば、たちまち底の見えない闇に呑み込まれてしまう。
一度そこに落ちてしまったら、もう2度と、「今」の自分に帰ることはできない。
——そう、言った。
じゃあ、どうすれば?
そう聞くと、微笑むように猫は言った。
「もう一度、同じ時間を過ごせばいい」
と。
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