…もしもし?

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…もしもし?

 「…あの」  掠れた声で、彼に近づこうとする。  いつもなら、いちいち声なんてかけなかった。  後ろから抱きついて、「わ!」って驚かせてあげるんだけど、生憎、そんな気分じゃなくて。  「ん?」  彼は振り向いた。  無駄に細い眉毛に、男には勿体無いくらいのぱっちり二重。  日に焼けた肌が、少しボサボサの髪の下でこんがりとした色をつけていた。  相変わらずの、小麦色だった。  「あれ?お前今日カラオケ行ってんじゃなかったっけ?」  声にはならなかった。  目の前にいる「人」が、誰かくらいわかってる。  その、着慣れたウィンドブレーカーも。  目の下のほくろも。  「…えっと」  どういう感情なのかはわからなかった。  わかんなさすぎて、ぐちゃぐちゃだった。  頭はパニックだった。  浮き足立つっていうか、なんていうか、…その  冷静になれっていう方がおかしいよね?  そう思う感情と、——心。  あの当時と変わらない目をした彼が、そこにいた。  ずっと遠い場所にいた彼が、すぐ目の前にいた。  そんなわけないって、思えた。  彼が、いるわけないって。  
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