2人が本棚に入れています
本棚に追加
…もしもし?
「…あの」
掠れた声で、彼に近づこうとする。
いつもなら、いちいち声なんてかけなかった。
後ろから抱きついて、「わ!」って驚かせてあげるんだけど、生憎、そんな気分じゃなくて。
「ん?」
彼は振り向いた。
無駄に細い眉毛に、男には勿体無いくらいのぱっちり二重。
日に焼けた肌が、少しボサボサの髪の下でこんがりとした色をつけていた。
相変わらずの、小麦色だった。
「あれ?お前今日カラオケ行ってんじゃなかったっけ?」
声にはならなかった。
目の前にいる「人」が、誰かくらいわかってる。
その、着慣れたウィンドブレーカーも。
目の下のほくろも。
「…えっと」
どういう感情なのかはわからなかった。
わかんなさすぎて、ぐちゃぐちゃだった。
頭はパニックだった。
浮き足立つっていうか、なんていうか、…その
冷静になれっていう方がおかしいよね?
そう思う感情と、——心。
あの当時と変わらない目をした彼が、そこにいた。
ずっと遠い場所にいた彼が、すぐ目の前にいた。
そんなわけないって、思えた。
彼が、いるわけないって。
最初のコメントを投稿しよう!