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「何しに来たんや?」
あっけらかんとした表情で、彼は私のことを見上げていた。
今すぐに使いたい言葉があった。
この手で、すぐにでも彼に触れてみたかった。
…でも
「…ハル?」
恐る恐る尋ねると、彼は「何?」と返事をする。
まるで、目の前で起こってることが、当たり前であるかのように。
きっとそうなんじゃないのじゃないのかなって、思えた。
なにがって、もしこんなふうに彼と会えたら、きっと彼は、昨日のことなんて何もなかったような顔をするんだろうって。
呑気な顔をして。
いつものように、冗談でさえ、——口にして。
「…久しぶり」
その言葉が正しいかどうかは重要じゃなかった。
どうして、そんなことを聞いてしまったのかもわからなかった。
もっと、かける言葉はあるはず。
言いたいことがあるはず。
確かめたいこと。
声に出したい想い。
ずっと胸の奥にしまい込んでいたものが、思わず溢れそうになる。
けど、それをどういうふうに出していいかもわからないまま、立ち止まりそうになる感情があった。
立ち止まる理由なんて、どこにもないはずなのに。
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