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「…わかった。どうせ怒りに来たんだろ?」
「…へ?」
「アイツにはちゃんと謝ったさ。よくよく考えたら、俺が悪かったって思うし」
…アイツ?
彼が何を言ってるのか、すぐにはわからなかった。
「ごめん」って、突然言われる。
そんなこと、今まであんまりなかった。
頑固っていうか、自分からそういうことを言うタイプじゃなかった。
出会った頃からそうだった。
どこかぶっきらぼうで、自分勝手で。
人の言うことを聞きもしないで、一度走り出したら、止まんなくて。
彼らしいっちゃ彼らしいけど、どこか独りよがりっていうかさ?
「別に悪気はなかったんだ」
「…なんの、話?」
「あれ?そのことじゃなかったのか?じゃあ、いいや」
「気になるんだけど」
「この前の練習試合だよ」
「練習…試合?」
「日曜日。お前も来てただろ?」
横浜高校との対戦。
そういえば、よく、野球部の練習試合を見に行ってた。
彼は野球部だった。
硬式野球部のピッチャー。
一年生の時からエースナンバーをつけて、甲子園に出ることを夢見てた。
私は野球になんか興味なかった。
ルールも、さっぱりだった。
ただ、いつからか試合を見るようになったんだ。
いまだに細かいルールはわかんないけど、昔に比べたら全然。
いつからか、高校のグラウンドに足を運ぶようになった。
放課後。
休日の午後。
——彼がマウンドに立っている日は、とくに。
今日がなんの日か、ふと、気になる自分がいた。
ここが「過去」なら、今日はいつ?
スマホを開くと、2014年4月とあった。
そうか。
私が、この「年」に来たいと思ったんだ。
高校3年生の春。
陸上をやめようと思った、あの頃に。
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