…もしもし?

10/11
前へ
/60ページ
次へ
 “もう一度飛びたい”って思ってるわけじゃないんだ。  もっとずっと、身近なこと。  胸の中にある気持ち。  夢は夢だし、現実は現実。  もういい大人なんだから、それくらいの分別はつくようになっている。  学生時代に戻ったって、自分の理想に近づけるわけじゃない。  それもわかってた。  だから…  「ちょっと寄ってみただけ」  「…ちょっとって、わざわざ電車に乗ってか?」  「うるさいなぁ」  なんだろう。  昔の記憶が、目の前で再生されていくかのように蘇った。  彼の言葉遣いや視線が、考えられないくらいに近くにあった。  懐かしい感じがした。  あの当時のこと。  彼が隣にいた頃のこと。  ハル。  不意に彼の名前を呼んでしまって、どうすればいいかわからなくなる自分がいる。  忘れたつもりはなかった。  彼の笑い方や、その横顔を。  少しずつ薄れていく輪郭があっても、心の中では、いつもいた。  ずっとそばにいた。  こんな時彼ならどうするだろうって、時々思ってたんだ。  隣にいるのが、当たり前だったから。  
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加