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彼が隣にいることが、まるで出来すぎた話のように見える。
近くにあったはずのものが、手の届かない場所にある。
昔から変わっていないその姿を見て、はっきりしない感触が視界のそばを掠めた。
疑うつもりはなかった。
目の前にいる人が、——「誰」か
手に触れてみたかった。
もっと近くで見てみたかった。
実感が湧かなかった。
だから、手を伸ばした。
「急になんだよ。気持ち悪りぃーな」
わからなかった。
頭の中では、わかってるつもりだった。
ここにきたことも。
彼に会いたいと思ったことも。
夢の中に帰りたいわけじゃない。
失ったものを、取り戻したいわけでもない。
ただ、会いたい。
会って、彼の声を聞きたい。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
何かを求めてるわけじゃなかった。
——少なくとも、この瞬間は。
「…久しぶりだね」
その言葉が、彼に届いたかどうかはわからない。
ただ、確かだったのは、当時と変わらない時間が、目の前にあったということだった。
手を伸ばせば、もしかしたら——
そう思えるほど、近くに。
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