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思い出した。
彼と喧嘩していた理由。
グラウンドに行かなくなった私を、彼は心配してたんだ。
余計なお世話だって、彼のことを突っぱねた。
きっかけは確か、——そう
夏が始まる頃だった。
「…私はもう、飛ばないから」
「は?飛ばない、…って?」
「ほら、わかるでしょ。“才能”ってさ、人にはあるんだよ。どれだけ頑張っても、越えられない壁っていうか」
「…なんだそれ」
「おかしい?」
「今度の大会はどうすんだよ」
「…大会?…ああ、出ないと思う」
「なんで?」
「…なんでって、そりゃ…」
彼は私のことを引っ張って、グラウンドに行こうと誘ってきてた。
その度に私は断ってた。
行ったってしょうがないし、急に飛べるようになるわけでもないし。
「インターハイに出る。それが目標なんだろ?」
「昔の話だよ」
「…昔って、去年の話じゃねーか」
そうだね。
2年生の頃はまだ、自分のことを信じようとしてた。
「飛べる」って思ってた。
まっすぐバーに向き合ってれば、——きっと。
「もう少し頑張ってみろよ」
「…」
「俺だって、才能なんかねーし」
彼は彼で、甲子園に行くって夢見てた。
でもそれは、私なんかよりもずっと現実的な話だった。
才能がないって言うのも嘘。
才能のない人が、チームのエースになんかなれない。
当時はこう思ってた。
軽々しく、「頑張ろう」なんて言わないで、って。
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