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「私はもう、飛べない。でもね、別に諦めてるわけじゃないんだ」
「…え?」
「私なりに、色々考えてたんだよ。自分に何ができるんだろうって」
「何が…って?」
「昔の自分はさ、「才能」って言葉を言い訳にしてた。それで全部片がつくような気がして。…でも、やり直せるなら今しかないとも思ってた。違う道に進むなら、早く決断しなきゃって」
彼は頷くわけでも、首を振るわけでもなく。
うまくは言えなかった。
本当の気持ち。
あの頃の自分。
諦めてるわけじゃない。
その「言葉」が、自分の胸の中に返ってくる。
嘘じゃなかった。
でも、正直でもなかった。
なんていうんだろう。
難しくはないはずなんだ。
きっとね。
前に進まなきゃって、ずっと思ってた。
それは確かだった。
目を背けたくなる自分がいた。
飛べない自分を認めたくなくて、必死に何かにしがみついてた。
それも事実なんだ。
逃げてるって言われてもしょうがない。
そういうふうに考えることが、——どこかで。
立ち止まりたくはなかった。
このまま、何もできない大人にはなりたくなかった。
少しだけ下がってみてもいいかなって思ってた。
諦めるとか、そういうことじゃなくて。
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