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「最後まで、やりきってみたらどうなんだ?」
「やりきる…?」
「俺にはわかんねーよ。陸上の難しさなんて。…だから、下手なことは言えねーけど、でも…」
「…でも?」
「飛べなくたっていいじゃんか。飛べるってわかって、飛ぶ奴なんていないだろ?」
きっと、昔の私なら、「何言ってんの」って言ってたと思う。
良く知りもしないのに、「勝手なこと言わないで」って。
…ただ、なぜかそんな気は起こらなかった。
ハルが言おうとしていることが、少しだけわかる気がした。
ほっといてよ。
当時は、そんなだったよね。
飛べないことがもどかしくて、グラウンドに立つのが怖かった。
遠ざかるイメージが、いつからか足をすくませてた。
自分にしかわからないと思ってた。
地面に触れた時の感触も、グラウンドの中の空気も。
飛べるから、飛ぶわけじゃない。
彼の言葉は、遠い昔の自分の心を叩くように響いた。
子供の頃、初めて目にしたバーの前で、どうすればいいかわからない自分がいた。
“怖い”って思った。
ただの授業の一環で、高さだって、別に大したことはなかった。
飛べるわけないって思った。
足を踏み出せなくて、どうしても、踏ん切りがつかない気持ちがあって…
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