未来の記憶

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 飛べるとは思えなかった。  体を動かすのも嫌で、飛び方だってわからなかった。  いっそ逃げ出してもよかった。  飛ぶ必要なんてなかったんだ。  バーに背を向ければ、それで済むはずだった。  「そうだね」  飛べるってわかってるから、飛ぶわけじゃない。  飛んで行きたい場所があるから、飛ぶ。  陸上をやめて、社会人になって。  時間が経つたびに感じてた。  どうして、陸上を始めたのか。  なんで、飛びたいと思ったのか。  「じゃあ、やめるなんて言うなよ」  思わず、頷きそうになる自分がいた。  グラウンドに戻ること。  1m70cmの壁。  もう一度、挑戦できれば——  …だけど、ダメだ。  わかってるんだ。  グラウンドに戻っても、あの日の自分を、追い越すことができないことを。
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