あの日、あの時

5/16
前へ
/61ページ
次へ
 テレビの中に映る光景を、今でもはっきりと覚えてる。  燃え上がる機体に、折れ曲がった翼。  飛行機は原型を留めていなかった。  滑走路は燃えた機体によって黒く汚れていて、とてもそこに飛行機があったとは思えなかった。  あれからちょうど10年。  その特集番組が、たまたまつけたニュース番組で放送されていた。  もう10年も経つんだという感覚と、まだ、10年しか経っていないんだなって気持ち。  できれば、あの事故のことは忘れてしまいたかった。  思い出したくもなかった。  どれだけ悲しくたって、時間は巻き戻せないんだ。  いつだって、それは同じだった。  時々、彼の夢を見る。  東京暮らしに馴染めずにいた私を、彼はいつもからかってきた。  いつも、教室の中で騒がしかった。  “鬱陶しい“  それが、彼と出会った時の印象だった。  だって、出会って早々に呼び捨てをしてくる人なんて、今までいなかったから。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加