未来の記憶

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 「沙苗はどうなの?」  詩穂は大学に行って、その後意外な職に就くことになった。  花火師。  最初聞いた時はびっくりしたんだ。  そんな仕事が、身近にあるっていうことも知らなくて。  「…ただの事務員だよ」  「事務員??」  「デスクワークみたいな感じ?」  「…を、やりたいの…?」  「そういうわけじゃないけど…」  もう、未来は決まってる。  やりたいこととか、そういうのはもう…  自然の流れに身を任せてた。  地元に帰って、ゆっくり考えようと思ってた。  時間が経つのはあっという間だった。  気がついたら二十歳を越えてて、少しずつ、街の景色が変わっていって。  「ただの社会人なんだろ?」  ハルはからかうようにそう言った。  ただの社会人でも、色々大変なんだよ?  そういう感情が不意に込み上げてきて、思わず文句が出そうになる。  社会人になってみないとわからないことが、たくさんあった。  ハルだってそうだよ?  社会人になってみたらわかる。    …もし  もし、別の道に進んでいたら  大学で陸上を続けるっていう道もあった。  選手じゃなくても、陸上に携わる道を選べば、今とは全く違う人生になっていたかもしれない。  詩穂も、アカリも。  これから先どうなっていくか、それはもう決まってる。  だけど今は、…今だけは、そうじゃないとも思えた。  こうして目の前にハルがいると、やっぱり変な感じだった。  まだ何も始まっていないようにさえ思えた。  何もかもが、変えられる気がした。  
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