集中豪雨!

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集中豪雨!

 七月の終業式の日だった。  いつもと同じバスに乗っているのに、なにか胸騒ぎがする。海の色が違うように感じた。  はっきりとわからない違和感。空気に色があるとするなら「暗い灰色」をしているように感じる。 「『妖怪』が来ますわ。それも群れで来ます。心して街や学校を守りましょう」  ふっと気づくと、「おろち様」がバスの隣の座席に座っていた。わたしの腕からいつのまにか、離れていたみたい。  わたしと同じように、学校の制服のブラウスを着ている。長い黒髪と白い肌。豊かな胸が羨ましい限り。って、見るところはそこではない。 (制服姿にもなれるんですね)  いつもの青い着物も綺麗だけれど。 「わたくしは今日は、あなたのクラスメイトですわ。莉子さんも、浅岡さんも、そのように認識します。あの不届きな男にだけは、わたくしの術がきくかはわかりませんが」  優希くんのことか。  わたしに合意なくキスをした男。「おろち様」を雷で消滅させようとした男。「おろち様」はもちろん、優希くんのことが大嫌い。    わたしは、どうだろう。  優希くんのこと、好き? 嫌い?  でも、今、大事なのはそこじゃない。「妖怪」の群れが来るだなんて。 「おろち様」がいるとは言え、わたしはちゃんと、街や学校を守れるの?  学校に着くと、莉子ちゃんはごく普通に、「おろち様」に、「おはよう。真由香姉さん」なんて言ってる。  真由香(まゆか)姉さん。と、クラスのみんなには認識されてるみたい。  終業式の間中、わたしたちは体育館にいた。ひどく雷が鳴っていた。校長先生も、いつもなら長い話を早めに打ち切ってしまう。 「集中豪雨があるそうです。避難警報が発令されています。学校は地域の避難所に指定されています。終業式は終わりますが、教室にてみんな、待機しなさい」  校長先生の話の後に、教頭先生が、みんなにそう話していた。「おろち様」とわたしとはうなずきあう。  先生方は話し合いがあるということで、職員室に行くとのこと。生徒だけで教室に戻ることになった。 「なんか、怖いね、真由香姉さん」  莉子ちゃんが「おろち様」の服の袖を軽く引っ張る。「おろち様」は、「真由香姉さん」としてのふるまいが堂々としたもの。 「大丈夫ですわよ」なんて、莉子ちゃんの肩をトントンしてる。    教室に戻ってすぐに、雷がますます激しくなっていく。数秒おきというところか。豪雨というのは本当で、教室が揺れるくらいの激しい雨が降り始めた。 「行きましょう。杏奈」 「おろち様」が立ち上がる。わたしも後に続いた。  優希くんの姿を探すけれど、そう言えば、終業式の時の体育館でも、姿を見かけてなかった。 「どこに行くの? あなたたち」  浅岡さんが叱るけれど、 「わたくしを誰だとお思いになって?」 「おろち様」は神様特有の凛とした表情になり、浅岡さんを睨み返す。 「誰って。……本当よ。あなた、誰なの?」  浅岡さんは急に怯えて、「おろち様」に言った。クラスのみんなもざわついている。「おろち様」はそのタイミングで、ひらりと、もとの青い着物に「早着替え」した。 「わたくしは森嶋神社のものですわ。杏奈が仕えてる神ですのよ」  不敵に笑うと、「おろち様」は悠然と教室を去る。  わたしは「おろち様」についていく。  教室の廊下がすでに水浸し。その上に、妙な海藻のような生き物がうねうねと動いている。 「そんな雑魚は放っておきますわ。敵は校庭。あの男が戦っておりますわね」 「おろち様」が少しだけ目を閉じている。全感覚を研ぎ澄ませてるのだろうか。わたしも真似をしてみると、脳裏に浮かんだ映像がある。    優希くんだった。  透明な大ダコのような妖怪と戦っている。  タコは複数の足をかわるがわるに動かして、優希くんを苦しめていた。優希くんは雷を勢いよく出して、タコの足を二本、すでに切断していた。  でも、その足は再生しかかっている。 「あの男を助けられますか」  乾いた声で、「おろち様」はわたしに言った。  
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