キスと戦い!

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キスと戦い!

「おそらく、学校だけに限りません。街の海沿いの廃工場などにも、このタコの妖怪は来ておりますわ。何か、タコたちの気に障ることをした人間がいるのでしょう。わたくしは一人でなんとか、工場あたりを制圧しにいきます。  杏奈はあの男に『霊力』を与えてあげられる。わたくしには悔しいですけれどね。杏奈があの男に、なんだかんだと許してしまうから」   「待って。わたし、なにもわからないです。説明してください」  わたしがすがると、「おろち様」は冷たい紅い目をしてわたしを見据えた。 「甘えるのではありません。神職見習いの小娘が。あなたをあの男のところまでは、わたくしの力で連れていくけれど、あなたはあなたで、責務を果たしなさい」 「おろち様」の言葉と同時に、わたしの体はふわりと宙に浮く。そのまま、猛スピードで廊下を突き抜け、階段を上り、屋上に出た。そして、屋上からわたしの身体は、ダイブする。  莉子ちゃんが、教室の窓からわたしを驚いた目で見てる。  それが、スローモーションで見えた。  わたしはなおも宙に浮いたまま、校庭をあり得ないスピードで移動する。途中、途中に、タコの死骸が無数にあった。これ、優希くんが倒したの?  もしかしたら、彼は、一人で戦ってた? 終業式のさなかも。  胸がじんと熱くなる。わたしにできることがもしあるならば。  優希くんは、大ダコと、今も戦っている。  この大ダコがボスなのかもしれない。  その少し手前にわたしは降り立つ。 「優希くん!!!」  大きな声で、彼の名前を呼んだ。  彼がパッと振り向いた。驚きから嬉しさに、グラデーションのように表情が変化していく。 「待ってた。俺には、もう後がないって思ってた」  優希くんがそう言うと、わたしの体を引き寄せた。優雅に、それでいて激しく、キスをする。  今、このタイミングで?  舌まで絡められた濃密なキスをされて、時が止まったような気がする。  でも、わたしの中の聖なるものが、彼の中に入って満ちていく。それがわかる。 「エナジードリンク扱いなんてしてねえし。そこはちゃんと訂正するけど、回復したのは確か。 とっとと片付けるから、まあ見てな」  優希くんは不敵に笑い、手に紫色の雷をバチリバチリと生み出した。雷の濃度がぐんと濃い。  優希くんは雷を、ボールを投げるように軽々と、大ダコの妖怪に当てた。タコはううっとうめいて、血のような青いものを吐き出した。 「多少は効いたみたいだな」  優希くんは醒めた声で言うと、手にまた雷を生み出して、その雷を剣の形に変える。 「森嶋。俺は決して負けない。どんな妖怪だって、この手で仕留めてやる」  剣に雷をチャージさせてるのか。優希くんはなかなか次の一撃を繰り出さない。敵はその間に体勢を立て直していると言うのに。  「優希くん。早く」 「なんだよ。最後まで聞けよな。負けないって言ってるのに、まだ俺を信じないのかよ。面白くねえ女! このタコに勝ったら、俺と付き合えよ!」  優希くんはどこか余裕ある眼差しで、わたしを見てた。面白がってる? この人。こんな状況なのに。  わたしがうん、と言わないと、次の一撃をしないつもりなのかもしれない。 「わかった。……付き合うよ」  付き合うって具体的にどんなことなのか。わたしにはわからない。 でも、はっきりとそう告げた。 「なら、杏奈。この戦いにはぜひとも、勝たないとな」  優希くんはにかりと笑い、すかさず宙に跳ねた。ありえない跳躍とスピード。  どこまで人間離れしてるの? この人。  雷の剣を、透明な大ダコに深々と突き刺す。大ダコの足はのたうちまわり、優希くんの身体に絡みつく。
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