忘れない

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 左手の星のマークは母ちゃんが最初に描いたものだ。 「あんたはね、人に迷惑ばっかりかけるんだから。忘れないように、これをみたら思い出しなさい。 人に迷惑かけない。 人には優しくする。」  母ちゃんはいつも俺にそう言って俺の手に星を描いた。  だから、今でも忘れないように。  いつでも目に入るように。  俺の左手に星があるのはそれからだ。  消えそうになると俺がまた油性ペンでその星の中を塗りつぶす。  ボーッと左手の手の甲の星を見つめる。  母ちゃん、空でみてるかな。俺、間違ったこと、してねぇよな? *  あの時も。普段は単身赴任でいない親父が突然帰ってきた。  その親父と喧嘩して。 「もうこんないえ二度と帰らねぇ。」 「勝手にしろ。」 「あぁ。勝手にするよ。」  中学三年、反抗期真っ只中の俺はそうして家を飛び出した。出来のいい二人の兄といつも比べてくる親父が大嫌いだった。反発ばかりする俺に手を焼いてるのはわかってたけど、俺の怒りが収まらなかった。  家を飛び出した俺を夜中まで探し回ってた母ちゃんは、その日の夜。  事故にあって帰らぬ人になった。 『ごめんな、母ちゃん…、俺のせいだ』  俺の母ちゃんはもう、帰ってこない…。
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