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ただいま
「母ちゃん、ただいま。」
いつものように仏壇に手を合わせると心配そうな顔でクロが近づいてきた。クロは賢いから、俺がなんかしょんぼりしてると察したみたいに俺から離れなくなる。
正座した俺の膝の上に顎を乗せて寝そべった。
クロの体をそっと撫でながら溜め息をついた。
「また殴っちゃったよ、俺。停学食らった。母ちゃん今頃、呆れてるよな…。」
その日。単身赴任で普段家にいないはずの親父がなぜかまた突然帰ってきた。
帰ってくるなりいきなり説教だ。停学処分の事で学校から連絡を受けたんだと言ってた。
じいちゃんは黙って側で漬け物を漬けてる。
梨紗子のことは親父には話したくなかったから言わなかった。
親子の話し合いにじいちゃんはいつも口出ししてこない。だけどその時ばっかりは口をだした。
「凌平にも訳があったんだろ…。」
「父さんは黙ってて。」
ピシャリと親父が言うとじいちゃんはもうそれ以上言わなかった。
俺が口止めしたから。親父には言わないでって。
「おまえ、少しはちゃんとしろ。」
「してるよ。」
「じゃあなんだ、このザマは。」
「何も知らねぇ癖に。」
「何だ、言ってみろ!」
「いわねぇよ、あんたなんかに言ったってわかんねぇ。」
「もう少し兄さん達を見習ったらどうなんだ!」
「俺は兄さん達とは違う!」
「そんな格好をして。人に迷惑かけて。」
「迷惑はかけてねぇ。」
「これが迷惑じゃなきゃ何なんだ。仕事を投げ出して来てるんだぞ。もう勝手にしろ!おまえなんかもう、知らん!」
「あぁ、勝手にするよ。こんないえ、出ていってやる。」
「あー、出ていけ。」
また喧嘩して家を飛び出した。
あの時みたいに…。
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