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横断歩道のおばあさん
学校から帰る途中、歩いている俺の前をおばあさんがヨタヨタのんびり歩いてた。
狭い歩道で抜かせねぇし。イライラしながら後ろを歩く。
次の信号を渡るつもりらしい。早く行ってくれよ…。
喉元まで出かかったけどグイッとそれを飲み込んだ。
俺の左手の星のマークが見えたから。
母ちゃんの顔がチラつき、母ちゃんのキンキンする声が聞こえた。
「こら凌平!人には優しく!だよ。」
「ヘイヘイ。わかってるよ」
母ちゃんはいつもこうして俺に説教垂れてきやがる。
おばあさんの荷物、重そうだよな。
一緒に持ってるちっさなバックはきっと財布とか入ってんだろ。口が開いて中身が見えてる。
すると俺の後ろを歩いてたおっさんが急にスピード上げて無理に俺を脇から追い抜いた。チラッと見るとそのおっさんの目がその前のおばあさんの横顔を気にしてる。
するとおばあさんの背後にゅっと手が延びた。
「あ!オィ!」
俺が後ろから声をかけたらそのおっさんは伸ばした手を引っ込めた。
今の、絶対あれだよな。引ったくろうとしたよな…
「チッ。」
こっちを振り返って舌打ちするとおっさんは早歩きで去っていった。
横断歩道の真ん中辺り。
何も知らずにのんきにおばあさんはヨタヨタ渡ってる。信号が点滅し始めた。
なんだよ、変わっちゃうじゃんか。
仕方ねぇ。
おばあさんのバックをひッ掴むと入れ歯の外れそうな口が動いて俺に言ってきた。
「あんれ、ど、どろぼー。」
俺にバックを奪われたと思ってる。
側にいたサラリーマンが驚いて振り返った。
「ちょっと…!」
捕まえようとして俺の顔をみてビビッたサラリーマンはその手を引っ込めた。見た目が怖かったんだろ。どうせ。
そう言うのと同時に俺がおばあさんをおぶるようにして片手で背中に担ぎ上げるとそのサラリーマンは不思議そうな顔をした。そして自分だけさっさと先に渡りながら振り返って俺の事を見た。
「あ、あぁ…、なんだ…。」
なんだってなんだよ。
俺はどろぼーじゃねぇし。
相変わらず強面で無表情の俺はムスっとした顔のまま、ギリギリなんとか渡り終えた横断歩道のハジッコでそのおばあさんを背中から下ろし、無言でバックをつき出した。
「ほら。」
おばあさんは固まったままそれをおそるおそる受け取った。
俺はくるりと背中を向け歩き出す。
なんだよ。返されると思ってなかったような表情だな。
別にいいけどね。
こんな顔だからな、そんな事すると思わねぇもんな。
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