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鼻血を出してる先生を放ったらかしにして俺は梨紗子の手を引き学校を後にした。
帰り道。梨紗子は泣いてた。
「ごめんね、凌平。ゴメン。」
「なんでお前が謝るんだよ。お前は全然悪くねぇじゃん。」
「だけど…。」
梨紗子が歩きながらぐすんと鼻をならす。
「好きなんだろ?って先生が言ってきたの。だからはい。って。そしたら先生が…」
「は?なんだそれ!」
「あたし、怖くなって。
あんなに好きだったのに。
先生が教室の窓のカーテンを閉めに行った隙にこっそり凌平にメッセージ送ったの。
怖くて動けなかった。腰が抜けちゃったみたいになって。ゴメン。こんな事に巻き込んで。」
「いいんだって。よかったじゃん、これですんで。」
ホームに電車が入ってきて二人で乗り込む。梨紗子の座る前に立ち、つり革に掴まり上から見下ろすと梨紗子は上目遣いで俺を見上げてきた。
トクン。俺の中でなんかの音がした。
「こんなの恥ずかしくて誰にも言えない。知られたくない。」
「別に言わねぇよ。」
「ゴメン。凌平…。ママにも内緒にして?心配するから。」
「わかった」
まあ、抱きつかれただけだし、未遂に終わったから実質的な被害らしい被害はなかったけど。
それでも梨紗子のその心はきっと傷を負ったはずだ。
言い訳はしない。暴力は確かに悪い事だし。だけど梨紗子の名前は出さなかった。
その夜、あの時の電車の梨紗子の顔がなぜかチラつき、またトクンと音がした。
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