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【1話完結】
夢への挑戦を“羽ばたく”と形容するのが流行りだった。
だからだろうか。トトに「涼太あのね、私、羽ばたこうと思う」と告げられ、俺の頭には強く地面を蹴る雀が浮かぶ。
彼女の手には、デザイン専門校の出願書が握られていた。
ーー
「トトの応援のためだ。存分にやってくれ涼太!」
「はいはい。塗料は臭いから奥に引っ込んでてくれ吉爺」
“カラーギャング”の語感に感化され、意味も調べずラッカーを手に取った中1の秋から、5年でこの商店街も随分カラフルになった。
成就を意味する稲と、雀をシャッターに描く。俺が飛べる空は、ノリがいいこの町の灰色のシャッターだけ。トトはその曇り空をぶち破っていくんだ。
俺はものの十分で飛行を終え大の字に寝転がった。手に残るのは空のスプレー缶、それだけ。
「でもどうしようもなく綺麗なんだよ」
「そうだよね」
頭上からトトの声がしてビビって跳ね起きる。トトは「わ、バカ」と翻ったスカートを抑えながら、片方の手で分厚い封筒を手渡してきた。
「なにこれ」
「5年間の給料。未払いでごめん。By商店街一同」
トトは悪戯っぽく、恥ずかしそうに笑った。
「これで一緒に飛んじゃわない? 1人に3LDKは広いんよ」
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