絶滅動物園

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ぬこ、には先祖がいる。 休日の電子図書館で、アキラはそれを発見した。読んでいた『世界動物大全』に載っていたのだ。本をタップして栞をはさむ。ⅤRゴーグルをつけたまま、隣室にいる妻に声をかけた。 「昔、ぬこに瓜二つの動物がいたらしいぞ」 ふうん、とエリは興味なさげだ。それでもアキラの隣にやってきて、ゴーグルを頭につけた。電源を入れるとすぐに、機器はきゅいーんという音を立てる。 エリが「図書館へ」と呟くやいなや、アキラの前に彼女のアバターが出現した。 「この本なんだけど」 アキラが猫のページをひらいて、エリに見せる。 艶やかな白い毛並み。丸い頭の両端に、薄ピンク色をした両耳がたっている。細長い尻尾も生えていた。 その姿は、ぬこそのもの。 「へえー、確かにうちのぬこに似ているわね」 そう言って、エリは本に載っている画像を人差し指でおす。 すると、猫が本から抜けだした。 ホログラムは実寸大だから、ぬこと同じ大きさだなとアキラは思う。くるりと一回りして、全身を観察させてくれた。前足をだし、ゆっくりと全身を伸ばす姿は優雅ですらある。 猫はつぶらな緑の瞳でアキラを見あげた。実体があったら頭を撫でてやりたいところだ。 「何年までいた動物なのかしら。二千二百年か。だいぶ前にいなくなっているのね」 エリが本を確認した。 「野生動物ではなくて、人間が飼っていたらしい。ぬこと同じでペットなんだよ」 アキラが目を輝かせながら説明する。 「ほかのページにも当時の色々な動物がいるんだ」 ページを進めるまえに、電子書籍をタップして猫のデータを保存する。これで何種目を集めたのだろうか、自宅のコンピューターにはどんどん『絶滅種』の映像データが溜まっていく。 ページをスライドした。 紹介ページが閉じられるので、白い猫は慌てて本のなかに戻っていった。みゅう、という鳴き声を館内に残しながら。
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