4 狛犬、ブレーン社、痴漢

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 ブレーン社の面接会場は、あまり遠くない。千葉→東京の直行線で東京まで移動し、地下鉄に一回乗ればすぐにつく。  直行線に乗っている間は、満員電車で押しつぶされそうになったぐらいで、特に事件はなかった。  事件は、地下鉄(やはり満員だ)に乗っていた時に起こった。 「ねえ拓海君、あれ痴漢(ちかん)じゃない?」  梓さんは胸ポケットから顔を出していた。  胸ポケットからの目線を追うと、俺と同じぐらいの年頃の女性が、通勤カバンを片手に乗り降りするドアのそばでスマホを見ている。  そこまでなら特に問題はないのだが、そのそばにはスーツにハゲのおっさんがいて、女性のミニスカートに手を伸ばしているのだ。めくったら完全に痴漢である。しかも顔がニヤついている……もう確信犯じゃないか。  女性はスマホに夢中なのか、全く気づく素振りがない。  これは声をかけたほうがいいのか……? いや、それで騒ぎになったら困るし……言っても言わなくても騒ぎになると思うけど……でも当事者になったら事情聴取とかありそうだな……このチャンスを逃したらもうブレーン社の内定はもらえないだろうし……  そんなことを考えているうちにも、おっさんの手はゆっくりゆっくりミニスカートへと近づいていく。どうやらミニスカートへ手を近づけること自体を楽しんでいるようだ。俺は痴漢を目撃したのはこれが初めてだが、かなりの常習犯に見える。  おっさんが女性のミニスカートに触れた。それからめくろうとした、その時……俺の体は勝手に動いていた。 「や、やめろーーっ!!!」  俺は人々の中をかき分けて女性の近くへと移動する。彼女はスマホから顔を上げた。
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