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「な、なに……?」女性は驚きのあまりスマホを落としかける。
「ち、痴漢です! この人があなたのスカートをめくろうとしてました!」俺はおっさんの方を指差して説明した。
「そ、そんなことやってないって! お、俺はただスマホを見ていただけです!」おっさんは苦しい嘘をつく。
「いや、俺、見ました!」
「し、証拠がないだろ!」
正論を言われて俺は一瞬黙った。
たしかに、おっさんの言うことは正しい。「痴漢された!」と嘘をついた人が捕まったというニュースだって聞いたことがある。
だがここまで来た以上、引き返すわけにはいかない。俺はもう一度叫んだ。
「と、とにかく、電車止めて、警察呼んで!」
気がつけば、近くにいた人たちにもざわめきが広がっていた。
近くにいた高校生らしき青年が「俺、車掌呼んできます!」と言って、「SOS 呼び出し」と上に書かれた赤いボタンを押す。
途端に電車のスピードが落ちていくが、その間にも俺とおっさんの言い争いは続き、いつの間にか「やった!」「やってない!」の水掛け論になっていた。
気がつくと電車は次の駅に止まっていたが、ドアは開かない。その代わり車内放送が流れた。
「SOSボタンが押されたため、緊急停車いたしました。大変ご迷惑をおかけしますが、今しばらくお待ちください」
その時運転席の扉が開き、中から制服を着た車掌が出てきた。
「何かあったんですか?」
「この人が痴漢をしようとしてたんです!」
「い、いや、してないって!」
「とにかく、警察呼んでください!」
「ひぇっ、警察!?」
おっさんは怯えた声を上げる。こりゃ確実にやろうとしてたな……
「や、やめてください、それだけはやめてください!」
涙目で土下座しようとするおっさんなど気にせず(まあこんな痴漢野郎気にしなくていいのだが)、副車掌はスマホを取り出して電話した……話の流れ的に警察か駅の警備員だろう。
それから車掌はトランシーバーに向かって話しかけた(多分副車掌へ連絡するためだ)。
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