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「妖怪の里だよ」まさかの答えだ(あとから思えば、梓さんは妖怪の里に住んでいるのだから当然かもしれない)。
「……どうやっていくんですか?」
「人気のない裏路地に行って、それから範囲移動術式を使う」
「人気のない裏路地があるとでも思ってるんですか!? ここは東京ですよ!?」
「じゃあ多目的トイレの中はどう?」
不意を付かれて俺ははっとした。
確かに、多目的トイレは広い。梓さんと俺が立っていられる、いや横になっても窮屈ではなさそうである(まあトイレでそんなことしたくないのだが)。
それに場所柄上防犯カメラはつけづらいから、「男が瞬間移動した!」って風に都市伝説系のテレビ番組に取り上げられることもないはずだ。
「でも、多目的トイレって、普段どこにあるか意識してないな……」
「そういうのはだいたい駅にあるって」
いわれてみればそうだ。俺は駅に行くことにした。
▽ △ ▽
俺は近くにあった駅に入ると、多目的トイレにやってきた(あまり来たことのない駅だったので苦労したが、構内マップを見てなんとかたどりつけた)
多目的トイレの中から鍵をかけようとしたとき、梓さんが注意した。
「鍵は閉めないで」
「な、なんでですか」
「少し前それで大騒ぎになったから……ずっと鍵がかかったままで誰も出てこないと誰かさんが通報したことがあって」
梓さんの表情(もちろんイラストだが)を見るに、どうやら鍵のことを相当気にしているらしい。
俺は言われた通りドアだけ閉めた。
すぐに「移動術式」とやらを使うのだろうと思ったが、そんなことはしなかった。
そのかわり梓さんは胸ポケットから飛び出した。
そしてキーホルダーが光に包まれた。
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