6 ラーメン屋、一反木綿、結界

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6 ラーメン屋、一反木綿、結界

 俺はなんとか街の妖怪の人だかりから抜け、大通りから少し離れた小さなラーメン屋へとたどり着いた。  穴場というやつなのか、それともお昼時を過ぎたからか、行列のようなものはない。  看板には、赤地に黄色い文字で「極長(ごくなが)塩ラーメン 一平木綿(いっぺいもめん)」と書かれている。  店名のそばには一反木綿がラーメンをすすっているイラスト。名前といいイラストといい、きっと一反木綿が店主のラーメン屋なのだろろう。  店の中に入ると、黄色い目の上に赤白ハチマキを巻いた一反木綿(あんなペラッペラの姿でどうやって巻いているのかわからないが、きっと妖術の類なのだろう)がめんの湯切りをしていた。 「へいらっしゃい!」一反木綿はめんを皿に盛り付けながら威勢のいい声を上げた。それから俺たちの方を見て続けた。 「――あ、梓さんじゃないですか……あちらのお方は?」 「ああ、この前四神の仮親に任命された、山崎拓海だよ」 「山崎拓海です。よろしくお願いします」 「そんな敬語使わなくてもいいですよ? そもそも俺、ただのラーメン屋ですし……あ、俺、錦一平(にしきいっぺい)といいます。店名も名前からとりました」 「で、でも、ここには上司(あずささん)がいますから……」 「いいよ……上司だからって、別に敬語使わなくても」梓さんが割って入った。 「僕はそんな「礼儀作法だけには口うるさいやつら」にはなりたくないから」  確かに。  もし梓さんが礼儀作法にうるさかったら、そもそも「僕」なんて一人称は使わないだろう。  そう考えていると、錦さんが言った。 「――早く椅子に座って注文してくれません?そんな入り口のそばで突っ立ってもらっちゃ困るんで」 「あ、すみません」
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