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7 誕生、電話、葛藤
「あ~、疲れた」
俺たちは妖怪街の出店達を見て回った後、移動術式で家へと帰った。
「なんで買わないのさ……おごるって言ったのに」梓さんは文句をたらすときの口調で言った。
「――遠慮ってもんがあるんですよ、特に今の現代人には」俺はぶっきらぼうに答えた。
「ふーん……卵についての話なんだけどさ」
「何?」
「君は、四神の仮親になる資格がある」
四神の仮親になる資格がある――そう聞いて、俺はほっとした。
ブレーン社の面接にも行けなかったし、二月となれば九割九分の会社が採用を締め切っている。
表面的には仮親になることを嫌がっていたが、心の奥では「もしここでクビになったらどうしよう」と思っていたのだ。
「あ、ありがとうございます……」
「まあね」梓さんは照れ臭く笑った。
「……じゃあ、僕、帰るね」
「え、ちょ、ちょっと――」
俺の引き留めもむなしく、次の瞬間にはもう梓さんは魔法陣の中へと消えていた。
ああ、いざというときのために連絡先交換したかった……まあいいや。
そもそも妖怪の里に電話といった「現代的な通信手段」というものがあるか知らないし。
妖怪の里の高官たちは、現代でもフクロウ便みたいなアナログな手段でやり取りしているかもしれない。
「とにかく、疲れた……」
俺は部屋に入ると、卵をリュックに入れたまま布団にもぐりこんでしまった。
▽ ▼ ▽
窓から入り込む光で目が覚めた。
体を起こすと、空のバスケットが目に入った。
「――やべ、リュックの中に卵いれっぱなしじゃん!」
俺は急いでリュックの中を覗いた。
まだ卵はそれぞれの色に光っている。
この光を、絶やしてはいけない――なんとなく、俺はそう思った。
それから俺は卵をバスケットに移し替え、いつも通り総菜パンで朝食を済ませた。
今日は土曜日。もちろん面接はない。
どうしようかと考えていると、スマホが鳴った。知らない番号だ。
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