7 誕生、電話、葛藤

3/3
前へ
/31ページ
次へ
「あ、あ――」  卵に亀裂が走る。 「もしもし、山崎さん? 聞こえますか?」  スマホから西川さんの声がしたような気もするが、今は答える余裕もない。  すでに卵はバキバキと音を立てて割れていた。 「あ、あ、あ――」  そして、出てきた。  あんな小さな卵には、おおよそ入らなそうな大きさの赤ん坊が。  うーんと四肢を伸ばす赤ん坊、丸まって親指をしゃぶっている赤ん坊、うつぶせになりながら床をたたいている赤ん坊、ぼーっと天井を見上げている赤ん坊。  体がかすかに光っていることを除けば、ぱっと見ごくごく普通な赤ん坊たちだ。 「もしもし、山崎さん?」  耳元の声で俺は我に返った。 「あ、あの……」俺は両手で携帯を包み込んでいった。 「ありがとうございます、そういっていたけて本当にうれしいです。本当にありがたいお申し出なんですけど――」  俺はすぐそばの赤ん坊たちを見た。4人とも俺の方を見つめている。 「――俺、そちらに入社できません」 「な、なぜですか?」  俺は息を思いっきり吸い込むと、大声で言った。 「子育て、しなきゃいけないんで!」   ▽ ▼ ▽  山崎拓海、22歳。  こうして彼は、朱雀、蒼龍、白虎、玄武の仮親になったのである。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加