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「あ、あ――」
卵に亀裂が走る。
「もしもし、山崎さん? 聞こえますか?」
スマホから西川さんの声がしたような気もするが、今は答える余裕もない。
すでに卵はバキバキと音を立てて割れていた。
「あ、あ、あ――」
そして、出てきた。
あんな小さな卵には、おおよそ入らなそうな大きさの赤ん坊が。
うーんと四肢を伸ばす赤ん坊、丸まって親指をしゃぶっている赤ん坊、うつぶせになりながら床をたたいている赤ん坊、ぼーっと天井を見上げている赤ん坊。
体がかすかに光っていることを除けば、ぱっと見ごくごく普通な赤ん坊たちだ。
「もしもし、山崎さん?」
耳元の声で俺は我に返った。
「あ、あの……」俺は両手で携帯を包み込んでいった。
「ありがとうございます、そういっていたけて本当にうれしいです。本当にありがたいお申し出なんですけど――」
俺はすぐそばの赤ん坊たちを見た。4人とも俺の方を見つめている。
「――俺、そちらに入社できません」
「な、なぜですか?」
俺は息を思いっきり吸い込むと、大声で言った。
「子育て、しなきゃいけないんで!」
▽ ▼ ▽
山崎拓海、22歳。
こうして彼は、朱雀、蒼龍、白虎、玄武の仮親になったのである。
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