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島国――ラビーウはそれほど大きくはない島だ。花々が枯れることなく咲く花の楽園とも呼ばれている裕福ではないけれど、国民が食べ物に困らない程度には暮らすことができている。
そんなラビーウから少し離れたところに此処よりも大きい島、シターアという隣国がある。彼の国は雪が降りしきる寂しい国だが、食べ物に困ってはいないけれどこちらも裕福ではない。
両国は最初の頃は友好関係を築いていたのだが、シターアの王が変わり若い王はラビーウの花の楽園に嫉妬した。
次第にそれは欲望へと変わってしまい侵略行為へと発展してしまう。
「この国は狙われているの」
淡い緑の長い髪を兎の耳のように二つに結った少女が言う。
風が吹けば花弁が雨のように舞い、優しく香る花々が咲き乱れる庭園のテラスにユエと少女はいた。
一面が花の海で漣のように揺れている此処はカマルに与えられた屋敷の一角だ。王族の隠居先として使われていた場所だったが、今はユエとカマルの居住区となっている。
黒いレースが特徴の繊細なドレスに身を包んだ少女はルゥルゥと名乗った。このラビーウ国の姫でアーシファの妹なのだという。彼女はこの国の現状を歌姫に説明するために屋敷を訪れていた。
白いワンピースを着ているユエにルゥルゥは「レースが沢山あしらわれたドレスもきっと似合うと思うわ」と笑みをみせる。
「貴女の唄は邪神様のために紡ぐの?」
「えぇ。だって私はそのために生まれたから」
「じゃあ、天界から堕ちた邪神を貴女は愛するの?」
ルゥルゥは「邪神だなんていうけれど、所詮は悪魔となんら変わらないじゃない」と、紅茶の入れられたティーカップに口をつける。少しばかり口調が強い彼女に、ユエは「それでも」と答えた。
ユエの「私は決めたの、どんな存在であろうとも」という返事に、ルゥルゥは理解ができないといったふうに眉を寄せる。
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