3人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなこと誰が決めたっていうの? それは貴女の歌唄いのガナー一族が決めたことなの?」
誰を愛するかなんて自由ではないのか。貴女が言っていることは決められた婚儀と変わらないじゃないかという、ルゥルゥの疑問にユエは決めたのと返す。
最後の歌姫――星影の歌姫として生まれた。その時に一つ使命が渡されるのだが、ユエは愛することであり、これが歌を唄う制約となっている。
「私は常夜に落ちる中、決めたの。全ての想い受け止めると」
これは私の意思だ。ワルドばばさまに言われていたけれど、最後に決めたのは自分自身だ。そう話すユエの星影のように瞬く青い瞳に一片の迷いもない。
彼女の決意は固いものだ。ルゥルゥには理解できなかったけれど、己自身で決めたことであるのだけは分かった。
「カマル様は貴女を愛するとは限らないのよ?」
それでもやはり言いたい気持ちがあったようで、ルゥルゥは悪戯っぽく問う。
だって、そうなのだ。カマルがユエを愛するとは限らないので、それでも想い続けることができるのかと気にならないわけがない。
「それでもいいの」
ユエはすぐに答えた、愛されなくとも愛すると。その声音は強く、揺るぎないものでルゥルゥはすぐに自分の悪戯が失敗したのだと気づく。
ユエがどれほどの月日を常夜の淵で生きてきたのか、ルゥルゥには分からない。けれど、その間、ずっと一人で顔も知らぬ存在を想い続け、迎えが来るその時を待っていた。
それがどれほどの想いの強さなのかをその一言で感じ取る。
「ねぇ、ユエ。カマル様が死んだら、貴女はどうするの?」
カマルはこの国を守るために戦うことになるだろう。多くの力を奪われて地上に堕とされ、邪神となった彼は死なないとは限らない。
僅かな神力と人間の対価によって力を発揮できているだけだで、不老ではあるものの不死ではない。
ルゥルゥの問いにユエは少し考えてから「傍にいるわ」と笑む。
最初のコメントを投稿しよう!