旭街は沙汰の外ー混沌とした街で店主は凶器を手に笑う

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「待って。この入れ墨がある死体をほかにも何体か扱ったけど、それもある?」 「わかんない。いっぱいあるからどれの事かわかんない」 肩を竦める白蓮に、灰は口を大きくあけて笑った。 「お互い心当たりしかなくてワロタ」 「ふふふふふ」 「わはははは」 二人の朗らかな笑い後が通りにこだまする。 連れていかれる運転手の顔は涙と汗でぐずぐずになっていた。真っ直ぐ歩けないほど覚束ない足取りだが、灰は構わず軽々と引きまわしている。 「丁度良かった。若い男の新鮮な死体が欲しいってお客がいるんだよね~」 灰と白蓮に挟まれて、男は店の奥へと連れて行かれた。 *** 騒ぎを遠巻きにながめていた住人たちが、ざわざわと言葉を交わしだす。 「喧嘩か?」 「あの店にかちこむなんざ、肝の据わったただの馬鹿か」 「あんた知らんのか。この街の最大組織のボスが昔から贔屓(ひいき)にしてる店なんだよ」 「店主と一緒にいた細身の男がボスの息子だ」 ざわめきはやがて、くすくすとした笑い声に変わっていく。 「怖いもの知らずだね~」 「今回のも随分と賑やかだった」 「今度、話を聞かせてもらおうや。きっといい酒の肴になるだろうよ」 止まっていた流れが動き出す。 緊迫感はすでにどこにもない。通りに散乱するガラス片や、血まみれの死体がもたれ掛かる高級車も、誰も気にも留めない。存在を認めていながら、顔をしかめたり、悲鳴をあげることもない。 ごく普通に起こりえる、日常の一部に過ぎなかった。 いつも通りの喧騒や笑い声が旭街の狭い空に響いていく。 了.
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