旭街は沙汰の外ー混沌とした街で店主は凶器を手に笑う

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旭街(あさいがい)の空は狭い。 古い建物が乱立しているこの街は、縦にも横にも違法な増築を繰り返した結果、巨大なガラクタの山のようになっていた。 密集する建物のあいだには、人がひとり通れるほどの狭い道が伸びている。薄汚れた路地から見上げた空は、周囲の建物に切り取られて余計に遠くに見えた。居ついた住人たちが勝手に引き込んだ電線が蜘蛛の巣のよう張り巡らされ、青空を捕えている。 どこからともなく怒号や悲鳴が聞こえてくる。ガラスの割れる音、けたたましい足音、そしてそれらを笑う声が路地の奥から響いている。 *** 若い男は煙草の煙を吐き出した。頭上には建物に遮られた狭い青空がある。覆いかぶさるような周囲の建物によって、路地裏は昼間でも薄暗い。 灰色がかった白髪が暗がりでぼんやりと浮かび上がっている。おびただしい数のピアスが耳元で鈍く光っていた。背が高く体格が良い。 右手には大振りの(なた)を握っていた。 刃についた赤黒い液体が足元に滴り落ちる。 薄ら汚い地面に、派手なシャツを着た男が倒れている。身体の下から赤いものがじわじわと広がっていく。赤い飛沫はあたりの地面や壁にも飛び散っていた。 若い男の頬にも返り血がついている。 死体を見下ろすその目には、なにの感慨(かんがい)も浮かんでいなかった。 「(かい)」 名を呼ばれて振り返る。 路地の入口には細身の青年がいた。路地裏の暗がりからだと通りの明るさが眩しい。灰と呼ばれた男は目を細める。 「私が来たぞ。店を開けてくれ」 青年は、灰の足元の死体や手にした血まみれの凶器を見ても、表情ひとつ変えない。一瞥しただけで、いつも通りのものとして気にも留めない。 それがこの街に住む人間の日常である。 灰は目を細めたまま、口角を持ち上げる。 暗がりの底でにたっと笑う。 「いらっしゃい」
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