旭街は沙汰の外ー混沌とした街で店主は凶器を手に笑う

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裏口の方から物音がしている。男の死体を、従業員たちが出荷に適した形に処理している音だ。 「そういう話はもう飽和してるんだよなぁ。酒の(さかな)にもならないよ」 白蓮のその言い草に、鏡に映る灰が鼻を鳴らして笑う。 玉暖簾(たまのれん)をくぐって店に戻る。 客人はカウンター前に置かれた安楽椅子に座っていた。我が物顔で優雅に足を組んでいる。 「死体はいくらで売れた?」 灰は顎に手を添えて、わざとらしく肩を竦めてみせた。 「えーどうしよっかなー。この情報、いくらで売ってあげよっかなー」 「ただの挨拶に金払うわけないだろ」 「ンだよクソが」 悪態を聞いた白蓮は声を出して笑った。 「拗ねるなよ。今日は別の情報を買いに来たんだからさ」 そう言って組んでいた足を解いた。肘置きに腕を置いて、口の端に笑みを浮かべて灰を見上げる。 「今月扱った商材のなかに、孔雀組(くじゃくぐみ)の構成員は何人いたか教えて欲しい」 「孔雀組かァ」 安楽椅子のそばの黒檀(こくたん)の丸机に浅く腰かける。首を傾けて視線を斜め上あたりへ向ける。天井から下がるランタンを眺めながら記憶を思い返した。 「四人だな」 「生体?」 「あー、一人だけ死んでた。あとは生きてたかな」 「納品先は?」 それを尋ねられた瞬間、灰はギロリと相手を睨みつけた。まるで刃物のような剣呑(けんのん)な視線を突き付ける。腹の底から発する低い声で恫喝(どうかつ)する。 「客は売れねぇ。さすがにお前でもそれは踏み込み過ぎだ」
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