1人が本棚に入れています
本棚に追加
裏口の方から物音がしている。男の死体を、従業員たちが出荷に適した形に処理している音だ。
「そういう話はもう飽和してるんだよなぁ。酒の肴にもならないよ」
白蓮のその言い草に、鏡に映る灰が鼻を鳴らして笑う。
玉暖簾をくぐって店に戻る。
客人はカウンター前に置かれた安楽椅子に座っていた。我が物顔で優雅に足を組んでいる。
「死体はいくらで売れた?」
灰は顎に手を添えて、わざとらしく肩を竦めてみせた。
「えーどうしよっかなー。この情報、いくらで売ってあげよっかなー」
「ただの挨拶に金払うわけないだろ」
「ンだよクソが」
悪態を聞いた白蓮は声を出して笑った。
「拗ねるなよ。今日は別の情報を買いに来たんだからさ」
そう言って組んでいた足を解いた。肘置きに腕を置いて、口の端に笑みを浮かべて灰を見上げる。
「今月扱った商材のなかに、孔雀組の構成員は何人いたか教えて欲しい」
「孔雀組かァ」
安楽椅子のそばの黒檀の丸机に浅く腰かける。首を傾けて視線を斜め上あたりへ向ける。天井から下がるランタンを眺めながら記憶を思い返した。
「四人だな」
「生体?」
「あー、一人だけ死んでた。あとは生きてたかな」
「納品先は?」
それを尋ねられた瞬間、灰はギロリと相手を睨みつけた。まるで刃物のような剣呑な視線を突き付ける。腹の底から発する低い声で恫喝する。
「客は売れねぇ。さすがにお前でもそれは踏み込み過ぎだ」
最初のコメントを投稿しよう!