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帰巣本能
あれ、私。
いつの間に外に出たの?
何をしてたっけ?
早く帰らなきゃ。
施設のお約束はちゃんと守らないと、もしここを追い出されたら私は帰るところがなくなっちゃう。
「ただいまっ」
「あなたの家はここじゃない!」
小森先生は見たことも無い厳しい顔をして、私にそう言った。
目の前でドアが閉められる。
ガラス窓から、私が見えた。
小森先生と手を繋いで、部屋に向かう私。
お気に入りのウサギのゴムで、二つに結った私が、ニヤって笑って奥に行っちゃった。
玄関の灯りが消えて、ドアのガラスに私の顔が見えた。
うっすらと分かる。
私は三つ編みで、猫のゴムをしてる。
「帰らなきゃ」
帰らなきゃ。
帰らなきゃ。
どこだっけ?
おうち、私のおうち。
足元にクモが死んでる。
死んでたんじゃない、あの男子が殺したんだね。
おいで、いっしょに行こう。かえらなきゃ。
ここじゃなければ、どこが私のかえるとこ?
お父さん、お母さん……そうだ、私にはかぞくがいたんだった。
今ならわかる。
おうちはこっち。
どうして早くかえらなかったんだろう。
あった。
ほんとは、おとうさんじゃないおとうさんと、おかあさんと、しらないおとこのこの、いえ。
ピン ポン……
「はーい」
ガチャ…………
「ただいま」
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