お塩

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お塩

「ねえ、さっき小森先生何してたの?」  次の日の夕飯の時、私は気になっていたことを一緒のテーブルにいるお友達に聞いた。  今日一緒にご飯を食べてるのは、同じ三年生の女子と、四年生の男子二人。三人とも、私とは学校が違う。 「何って、先生なんかしてた?」 「玄関で、なんかばら撒いてた。豆まきみたいに」  小森先生は、五時にいつも通り帰って来る子供たちを迎えて、一番最後の三つ編みの女の子をいつも通り追い返してた。  私はその後は部屋か図書コーナーに行っちゃうことが多いから、知らなかったけど、今日たまたまトイレに行くときに見ちゃったんだ。  なんか器に入ってるものを、ドアに向かって投げてるの。 「それ、塩じゃね?」  黄色いTシャツの男子が、口にご飯を入れたままそう言った。 「塩? なんで塩投げるの?」 「知らん。ばあちゃんが、キライな班長のじじいが来た後に“塩撒け!”って言ってばら撒いてた。お相撲さんみたいに」 「それ砂かけババアだろ」 「なにそれ」 「知らねえの? 妖怪」 「妖怪になんか用かい」 「つまんねえー!」  男子は私の疑問は置いてけぼりで、勝手に盛り上がり始めた。   「嫌いな人に塩投げるのかな?」 「分かんない。お店の前にあるお塩なら知ってる」 「ああ、なんかピラミッドみたいなやつ?」 「うん。パン屋のおばちゃんがね、センキャクバライって言ってたよ」 「センキャクバライ? 払い? お金の払い方のこと?」 「知らない。センキャクって先のお客さんのことかな?」 「先のお客さんが払ってくれるのかな?」 「あそこのメロンパン好き」 「私も。あとクリームパンが犬の形してて可愛い」 「あれ猫だよ」 「犬だよ」 「え? あれクマじゃねえの!?」  話が変な方向に逸れていくうちに、私は塩の謎のことも忘れちゃった。
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