おかえり

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おかえり

 結局学校は五日間も休んだ。  なんの風邪か知らないけど、そうしないと学校行けないんだって。  私は久々の学校で劇の練習に参加したけど、休んでる間もセリフの練習したらからちゃんと言えたよ!  劇の発表は来週で、施設の先生も見に来てくれるんだ。  楽しみだな。  学校から帰って、おやつ食べて、それから友達が園庭で遊ぶって言うから、私も一緒に外に出た。  ずっとお部屋にいたから、お外で遊ぶのがすごく楽しい。  五年生が一輪車をやってたから、私もみんなと挑戦してみたけど、すぐやめちゃった。だって怖くて無理! 転ぶと痛いし、私はジャングルジムでみんなを応援する係をしてた。    暗くなってきて、みんなで使った物片付けて、ついでに男子が片付けなかった野球ボールを拾って、五時のチャイムギリギリで戻った。  野球ボールは先生に言いつけてやる。  片付けない子は使っちゃいけないんだから。 「ただいまー」 「はいおかえりー」 「ただいま、先生見てでっかいクモみつけた」 「わー! 早く外捨てて来て!」 「大丈夫だよ死んでるから」 「どっちにしろ虫持ってこないで!」 「先生ただいまー」 「おかえり、ちょっと、その泥先に洗濯室持って行きなさい!」 「はーい」  今日は外で遊んでいた子が多いのか、玄関がぎゅうぎゅうだ。  私も順番を待っていたら、男子がおっきいクモをポイって投げて来た。 「ちょっとこっち投げないでよ!」 「いひひひ」 「もう、男子ってほんとバカだよね」  六年生の女子が怒ってたけど、私もクモを投げられるのは嫌だな。 「先生ただいま」 「おかえり。あら、その腕どうしたの?」 「一輪車でころんだ」 「ちゃんと洗っておきなよ」 「うん」  私は靴を片付けると擦りむいた腕を見ながら部屋に上がった。  手と傷を洗ったけど、ちょっとだけしみた。  もう血は止まってたけど、ハンカチで拭いたらちょっとだけ付いちゃった。  でもそんな痛くないし、これならこのままでもいいや。お風呂が痛いかもしれないけど。 「あ、野球ボール!」  そうだ。  先生に報告するの忘れてた。  私は急いで玄関に戻ったけど、小森先生の姿はなかった。  ドアはまだ開いてるけど、奥の部屋から女子の大きな泣き声と小森先生の声が聞こえてきたから、閉める前に喧嘩とかあったのかな?  ならあとで言おう。  そう思って、私も自分の部屋に帰ろうと思った時。 「ただいま」  三つ編みのあの子がいた。  今日は赤いゴムに、小さな猫の飾りがついてる。  私も同じやつの、ウサギを持ってる。今日も朝、先生に二つにそれで結ってもらったの。  可愛くてお気に入り。 「ただいま」  女の子はドアの前でもう一度そう言った。  小森先生はまだ戻って来ないし、他の先生も夕方は忙しいから見当たらない。  少しお話するくらいいいよね? 「ただいま」  もしかして、「おかえり」って言って欲しいのかな?  ここは「おかえり」って言ってくれる人がいない子がたくさんいるところ。施設では小森先生が必ず言ってくれるけど、私たちにはちょっとだけ特別な言葉。  この子も、ここが家じゃなかったとしても、きっと「おかえり」って言ったら嬉しいよね? 「ただいま」 「おかえり」  ほら、すっごく嬉しそう!  その子は初めてドアよりこっちに入ろうとして、それと同時に後ろから小森先生の悲鳴が聞こえた。
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