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いじわるな先生
「先生ただいまー!」
「はいおかえりー」
「ただいま!」
「こら! 靴を片付ける!」
夕方五時になると、外で遊んでいた子供たちが一斉に帰って来る。
それを迎えるのは、施設でも人気の先生、小森先生だ。私はあんまり好きじゃない。だって先生、一人だけいつもいじわるするから。
もう少し待ってると見れるよ。
……ほら。帰って来た。
「ただいま」
「ここはあなたのおうちじゃない!」
いつも最後に帰って来るのは、肩くらいまでの三つ編みを水色のゴムで縛った女の子。三年生の私より少し小さいから、多分二年生くらい? ああやって先生が追い出しちゃうから、お話ししたことはない。
先生はああ言ったあと扉を閉めて鍵をする。
ガチャリと鳴ったドアの向こうで、三つ編みの女の子が寂しそうに見えた。
「ねえ、どうして小森先生ってあの子にいじわるするの?」
私はたまたまそこにいた同じ施設の、六年生のお友達に聞いた。
「あの子? どれ?」
「ほら、玄関の……あれ、いないや」
「ねえご飯の前に宿題一緒にやる?」
「……うん、やる。割り算のプリント苦手なんだ」
「じゃあ教えてあげる」
いっつもどこかに消えちゃうから、本当にここの施設の子じゃないのかな?
でも、他の子には優しい小森先生も、あの子を追い出す時だけはなんか怖いの。
それが本当は先生が怖い人なんじゃないかと思って、ちょっと好きじゃない。
ここは児童養護施設ってとこで、私は一年生になる少し前に来た。
お父さんとお母さんはいつも喧嘩してて、多分原因は私なんだ。私が悪い子だったから、お父さんとお母さんはいなくなっちゃった。
毎日ぶたれないのはいいけど、私のせいで二人とも裁判所の偉い人から怒られたみたいで、いつも自分が嫌になる。
ここに来て友達とずっと一緒にいるのは、楽しいし、時々ちょっとうるさい。
けど、いい子にしてればきっとまたお父さんとお母さんにも会えるよね。
先生たちは、大体優しい。
小森先生だって、あの子を追い出さなければ、大体優しい。
男子の喧嘩にたまに巻き込まれる以外は誰もぶたないし、ごはんもいつも食べられる。
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