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ダリヤが目を細める。
「僕、昔から嫌われ者だったんですけどね」
「知ってる」フェリスが舌打ちした。
「おお、ひどい」からからと笑って、ダリヤが腕の力を強める。
「ぎゅえっ」
「フィー。キミの命は今僕の手中にある事、ゆめゆめお忘れなきよう」桃色の瞳が輝く。
「そんな事絶対にしないけどさ。僕にはキミをここで放り捨てることも、このまま抱き締めて潰すこともできるんだぜ。正しく、掌中の珠だ」
マリーが「その用法、違わなかったっけ」と言って怪訝な顔をする。
「いや失敬。学科で習った内容、ほとんど覚えてないもので」
「お前ゴリラだもんな。ゴリラ。やーいゴリラ、勉強しろ勉強」
「うるさいお口だ」
ダリヤが片手を徐ろに挙げ、フェリスの口を覆う。
「むぁにすんだよ!」
「あぁ、やわらかい」
フェリスを抱きしめる腕がぞくぞくぞく、と震える。後頭部に、口元にあった手が回る。
――フェリスの吸っているのと同じ、ピーチフレーバーの煙の香り。
マリーが「あら」と口元に手を当てた。
誘うように何回か、それを繰り返す。
「……やめろ」
「そんなに僕のことが嫌いかい?」
微笑みが、少し寂しそうなものに変わった。「僕はね、知っているよ、フィー」
「何をだよ」睨み付けるフェリスの目は赤い。白かった肌を、つう、と涙が伝いおりる。
「うるせぇよ。死ね、死にやがれ、クソダリヤ」
「もっとひどいこともしてあげようか」とダリヤが真剣な顔で言うと、唇を曲げて黙る。
「キミは、教祖であったからか、――ひとからの好意――いや、違うね。そもそも、ひとを拒絶すること、それ自体ができないんだ」
「……」
「僕は、それに付け込んでいる。――流石にね、自覚くらいはあるんだよ。ただ、嬉しくてさ」
フェリスの髪をそっと、壊れ物に触れるように撫でる。
「僕は、生来は、忌まれるのがデフォルトの物だった。――川を毎年流れて、皆の不穢を受け取ったら、また蔵に納められる。――ひとからの優しい言葉なんて、入る隙が一分もなかったんだ」
「流し雛か」
マリーがぼそりと言った。続けて言う。
「良いのか、こんな所で話して。自分のことはフェリスにしか話さないと、最初のころに息巻いていたのに」
「いちおう、直属の上司ですからね。移動が終わるまで、離れてくれとも言えませんし」
今この状況でどこかに行かれたら、僕、フィーに何をしちゃうか分かったものじゃないし――さらりとフェリスを恐怖の底に突き落とし、ダリヤがうふふ、と笑った。
「僕の汚れた身体を見て、気持ち悪い、と言わなかったのは、キミが初めてだったんだよ、フェリス」
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