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(待っっってぇぇぇーーーーっ! こんなのおかしいわ! ある意味夢よ幻よーーッ!)
すでに地面が遥か遠くに見えるという、気を抜けば失神しそうなほど歯がガチガチ鳴るこの状況。生身の体で居ていい場所ではないのは確かだ。
「やだやだやだやだぁぁぁ何これぇぇぇっ!」
全然一瞬でヒュンッとじゃない。いっそ気を失ってた方が一瞬でヒュンッかもしれない。
ガタガタ震えながらエリオンにギュッとしがみつくと、エリオンはクスッと笑う。
「だから目を瞑っていろと言っただろう。大丈夫。ほら、崖の上が見えてきた。な、簡単に行けるだろう?」
空中で余裕の笑みを見せるエリオン。
ただ……崖の高さに辿り着く前にずいぶん失速してるのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではない。感覚的に何となくわかる。
……これ、崖の上までたどり着かないんじゃない?
「エッ、エル!? 届かな……お、落ち……落ち……ッ!」
「ん? あぁ、あなたの体重分のパワーが少し足りなかったらしいな」
重くて悪かったわね! なんて悪態をつく余裕なんてあるわけもなく、崖の上まであと1メートルというところで止まってしまった上昇は、一瞬の浮遊感ののち、すぐに下降へと切り替わる。
「ヒッ――……」
全身の血液が逆流するかのような感覚に、どんどん気が遠くなっていく。
(あぁもうダメ、私、今度こそ死ぬ……)
失神寸前。恐怖が最高潮に達して声すら出なくなった時、シェリルをグッと抱き寄せたエリオンがニヤリと笑う。
「あまり大きな音は立てたくなかったけど、仕方がないな。上手く調整しないと……」
どこからそんな余裕が来るんだぁぁぁ! と叫びたくても下降の恐怖で声が出ない。
対称的に一つの焦りも見えないエリオンは、腰に回された手と逆側の手のひらを真下に向けて何かを呟く。すると魔法陣が浮かび上がり、エリオンの手のひらの向こうからドンと爆発音がして再び体が上昇に転じた。
「今度は何なのよキャァァァァーー!」
「俺は大胆な攻撃とか広範囲の防御とかの方が得意なんだ。その代わり、小さく加減するのは難しい……って聞いてるか?」
崖の高さを余裕で超え、「やっぱり飛び過ぎたな」と言ってハハッと笑う呑気なエリオンに訴えたい。
(でもでもでも! 待ってぇぇぇっ! 真っ直ぐ飛び上がっただけで、この後どうするのよぉぉぉ!)
崖までの距離は横方向に5メートルほど離れている。手を伸ばしたところで届かない。
(結局このまま落下!? 死ぬ……確実に死ぬぅぅぅ!)
崖の頂上の遥か上の位置で上昇が止まって再び一瞬の浮遊感を感じて下降に転じると、恐怖でグッと歯を食いしばる。
するとエリオンがまた小さく何かを呟き、今度は横に手をかざす。
その瞬間、再びの爆発音とともに、今度は横方向に体が吹き飛ばされるかのように移動した。
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