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シェリルが目をパチクリさせて話の行方を探っていると、従者が咳払いをして横向きのまま再びシェリルに問う。
「それで……あなは一体何をしたのですか? 正直に白状したほうが賢明ですよ?」
なぜ話が最初に戻ったのだろう。従者は何でもない素振りで聞いてるけど……あなたたち、ちょっとおかしいわよ? と、その意味不明さにシェリルは顔を引きつらせた。
「ついさっき正直に白状したのに……」
「ちょっと誤解がありました。ですから改めて話してください」
「そんな……」
地獄というのはやはり酷い場所らしい。思い出しただけで涙が溢れそうな話を繰り返しさせるだなんて、ずいぶん辛い罰だ。
今にも泣き出しそうになって黙っていると、従者がしびれを切らしたように話し始めた。
「一度話を整理しましょう。ここはエーデルアルヴィア王国内にある辺境の地・ベリタスです」
「……えっ!? エーデルアルヴィア王国!?」
エーデルアルヴィアといえば、シェリルの住むルミナリア王国の隣国。その国土面積はルミナリアの3倍以上、人口も5倍以上の大国で、もちろん地獄でもなく魔王がいる世界でもなく、生きてる人々が暮らす国だ。
「嘘……私、崖から落ちたのに生きてるの!?」
「……は? あなた、崖を落ちてきたんですか?」
「うん、そう。私生きてるのね……」
暗くて下が見えないくらいの切り立った崖。そこから落ちたはずなのに……。
「本当にあの崖から落ちたんですか? 上から?」
「そう……だと思うけど、必死だったし、途中から記憶がないの。でもてっきり地獄かと思ってたわ。違うのね」
「地獄? あなたはずいぶん不思議なことをおっしゃいますね。私たちが一体何に見えていたのでしょう……」
「えっ? それは……変態グッドルッキング魔王と……男色インテリ従者? 二人合わせて非紳士’s、みたいな感じ?」
正直にそう答えると、従者の顔はみるみるうちに赤色に染まる。
「……は? 何ですかそれは……。この際、魔王とか従者とかグッドルッキングとかはいいとして、変態とか、なっ、男色とはどういう意味ですか……?」
「だって、恥ずかしいって言ってるのに胸を隠させてもくれなくて、『女の武器なんて通用しない』とか言うから……。それに、そっちの魔王は私の胸元をじっと見てたわ」
すると非紳士’sは――
「あなたという人は……じっとなんて見てたんですか!?」
「だ、断じて違う! それにそういう意味で見たわけではなくてだな……」
「せめて相手を選んで見てくださいよ」
「何だそれ。選べば見ていいのか?」
「……まぁ、そういう時は、一応お相手に一言添えて――」
「『見ていいか』って聞くものなのか?」
「……」
「お前男色なんだな。知らなかった」
「違いますよ! れっきとした女好きです!」
「……堂々と言うことじゃないな」
「そっ、そういう意味ではなくて!」
……とか何とか非紳士’sは再びごちゃごちゃと小競り合いをしているのだった。
(……ねぇ、あなたたち仲良しね。暇だわ……)
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