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聡介、お前は思う存分、自由でいればいい。
手元にあるものが、どれだけ貴重か気付けばいい。
常にそばにいる俺を、
煩わしいと遠ざけて、
欲しい時だけ、上手に求めて、
それを与えられることに慣れて、
満足すれば手放して、
自分が立つその位置を、保っていればいい。
惜しみなく与えるのは、愛が欲しいからじゃない。
その程度で得られる愛なら欲しくはない。
欲しい時に与えて、
必要がない時でも与えられると教えてあげる。
そうして、安心して、俺に身を委ねていればいい。
何年もかけて与えた愛は、もうすぐ鮮烈に花開く。
お前が欲しい時に与えた愛が、
きっとお前を空虚にするよ。
それを、自由だと勘違いするほどに巧妙に、
またすぐに手に入ると思うほどに心安く、
俺を欲して止まないように、愛してきたのだから。
百日紅の花は、100日間、花を咲かせ続ける。
幹から伸びる枝の先、小さく縮れた花が塊り咲き乱れる。
ばれないように、ひっそりと、
枯れては咲いてをくり返し、
真夏の太陽の下、咲き続ける。
気付かないように、ひっそりと、
咲かせ続けた愛の驕りは、
俺がいなくなって初めて意識するだろう。
その頃にはきっと、
自由がないことに気付かされる。
百日紅の名前の由来を知っている?
滑々となめらかな幹は、猿も登れないんだって。
ねぇ、聡介。
俺がこの街を出たら、目の前には居ないんだよ。
気付いた時には、もう遅いんだ。
当たり前だと思っていた俺の愛を、
与えられずに苦しめばいい。
欲して、欲して、
俺の元にやってきたときは、与えてあげる。
百日紅のなめらかな幹は猿も登れないんだって。
だから、聡介、
俺の足元で、
俺が与えるまで待つしかないんだよ。
そうなるように、愛してきたのだから。
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